ヤッホーブルーイング×東日印刷
前回まで、ヤッホーブルーイング社のこれまでをご紹介しました。
今回は2017年3月16日に開催した「ヤッホーブルーイングに学ぶ『愛される会社』が大切にしていること」セミナーの様子をお届けします。
ヤッホーブルーイングといえば、ユニークな製品名や社風でも注目を集めています。その裏には、ヤッホーブルーイングが基本としている戦略がありました。まずはその基本戦略について人気商品「水曜日の猫」開発プロセスを例にご紹介します。
差別化戦略を徹底する
ヤッホーブルーイングが基本としている戦略は、「差別化を徹底する」ことだといいます。製品開発にもその考え方を用いて、以下のような製品開発方針を設定されています。
- 差別化を行う
- 他社が真似を躊躇するくらい行う
- ターゲットは明確に、狭く
- ブランディングする
講演の中で、実際の製品開発資料の一部が紹介されていましたが、ターゲットについて非常に細かく設定されており、住んでいる場所や休日の過ごし方まで、非常に細かく想定されていました。
トレードオフ
そこまで狭いターゲットを想定すると、どうしても賛否両論がある製品が生まれます。普通、製品開発ではなるべく多くの消費者に好まれるものを目指すものですが、ヤッホーブルーイングでは「多くの人が選ぶデザインは×」「2~3割の人の強い支持が心地よい」という判断基準を設定しているそうです。
当然、ターゲットに合わない人が多く出てきてしまいます。しかしそれはトレードオフだと割り切って、突き抜けた個性を強く支持」してもらうことを第一にしているとのことでした。
トレードオフへの抵抗をいかに払拭するか?
ターゲットを狭くしていくと、自然と今までにない特徴を持った製品が浮かび上がってきます。そんな時、やはりヤッホーブルーイング社内においても「そんなデザインやネーミングのニーズがあるとは聞いたことがない」などのネガティブな意見も出るそうです。その意見に対して井手氏はこう答えるといいます。
「今存在しないものは消費者は評価できない」「失敗しても良い」「上手く行くかどうかなんて誰にも分らない」「リスクを取っていこう。」「小さく生んで大きく育てよう」
また、この考えでもう一つ大切なのは、想定しているターゲットへのリサーチでもあるようです。井手氏のお話の中で、幾度も出てきたのが「実際に聞いてみるんです」という言葉。ライフスタイルや日々の生活習慣、デザインの好き嫌いなど、各段階において、ターゲットとされる人を集めて感触を確かめているとのことでした。
大胆な決定と詳細なリサーチによって「水曜日の猫」はターゲット層からの支持はもちろん、想定していなかった層にも受け入れられ、大きな成功を収めたそうです。
熱狂的ファンのパワー
ここまで、商品開発プロセスを例にヤッホーブルーイングの戦略をご紹介してきました。続いて、ヤッホーブルーイングで最も大きな反響があった「カエル捕獲作戦」を例に、プロモーションにおける基本戦略を紹介していただきました。
カエル捕獲作戦とは、2014年、「僕ビール君ビール」発売の際に行われたプロモーションです。発売に先駆け、SNSを通じてファンへこう呼びかけました。「ローソン限定で新しい商品が発売されます。ただ、全店に置いてもらえるかはわかりません。全国のファンのみなさん、もし「僕ビール君ビール」を見つけたらSNSで教えてください!」
当時「知的な変わり者」をコンセプトに、様々な活動で着実に熱狂的ファンを増やしていたヤッホーブルーイング。この「熱狂的ファンの力」で、「捕獲報告」はぞくぞくと集まり、「僕ビール君ビール」は同日に発売した大手ビールメーカーの新商品を上回る売り上げを記録しました。
井手氏はこの時にはすでに、以下のような基本戦略を意識していたと言います。その基本戦略は
- 目に留める
- 強く記憶に留める
- 口コミしてもらう
こと。そして、この戦略には「業界初」「インパクト」「ユニーク」の3つが欠かせないということも強調されていました。
特に若い世代では、面白いものや取り組みにふれた人はSNSでシェアをするケースが多くなっています。インパクトがあり、ユニークさがあれば思わずシェアしたくなるもの。SNSが生活に浸透した今は、熱狂的なファンが多ければ認知は広がっていきやすい時代です。一つの「シェア」の先に、たくさんの繋がりがあることを思えば、SNSでの口コミの効果は計り知れないものがあります。
連鎖していくつながり
熱狂的ファンは、さらにファンを生み出します。その例としてヤッホーブルーイングが毎年夏に開催しているファンイベント「超宴」の紹介がありました。「超宴」は軽井沢のキャンプでの一泊二日の大イベントですが、なんとその会場には相当数の「このイベントでヤッホーブルーイング、よなよなエールを知った」という方がいらっしゃったそうです。
熱狂的ファンに誘われた友人がイベントを通じてよなよなエールのファンになっていく…こうして波紋のように広がっていく。
SNS同様に、ファンとの強いつながりがヤッホーブルーイングを支えている事を感じるエピソードです。
まとめ
私たちはトレードオフを受け入れ、他社が真似を躊躇するほどの差別化を行うことで結果を出してきた。突き抜けた個性は賛否両論を生むけれども、熱狂的なファンを生んでくれる。
そして、ファンを楽しませるために本気で行動しているうちに、取引先や社員も幸せだと言ってくれるようになった。私たちは、この幸せをもっともっと広めて、世界平和を成し遂げたい。そのために変わり者と笑われてもかまわない。私たちは「よなよなエールでみんなを幸せにするのだ」井手氏はまとめとしてこう語り、約二時間にわたる講演は終了となりました。