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中小企業診断士が解説!「キリンvsアサヒ」対照的な販売戦略とは

T-NEXTの平野邦久です。

突然ですが、私は大のビール党です。

家飲みでも外飲みでも「とりあえずビール」そして「どこまでもビール」です。

健康診断の度に尿酸値が8点台中盤を叩き出そうとも、夜中にトイレで目が覚めることになろうとも、毎晩最低2リットルのビールをやめることができません。

今回のブログでは、2020年10月から6年かけて進むビール系飲料の酒税改正(注1)を前に、トップシェアを争うキリンビールとアサヒビールの対照的な販売戦略をご紹介します。

キリンビールの戦略にコクはあるのか、はたまたアサヒビールの戦略にキレはあるのか、中小企業診断士の目線で解説したいと思います。

ビール好きな人も、そうでない人も、どうぞ最後までお読みください。

 

ところで、みなさんはビール・発泡酒・第三のビールの違いをご存知でしょうか。

なんとなくビールは高く、発泡酒や第三のビールは安いというイメージはお持ちだと思います。今までなんとなくしかわかっていなかった点を明確にすることで、ビール系飲料のおいしさを今よりも堪能することができるかもしれません。

これら3つの違いの鍵となるのは、麦芽の使用料と麦芽以外の副原料です。

・ビールの定義
ビールは麦芽の使用料が50%以上であること、また、副原料の使用割合も重量比で麦芽の5%までに制限されています。

・発泡酒の定義
発泡酒は麦芽の比率が50%未満であること、もしくは副原料の使用割合が5%を超えるものと定義されます。

・第三のビールの定義
第三のビールは発泡酒に麦由来のスピリッツを加えたもの、または麦か麦芽以外のものを原料にしているものを指します。

各社のマーケティング戦略

キリンビール

酒税改正は、相対的な値上がりになる第三のビールにとって逆風になりますが、キリンは2018年3月に発売され大ヒットしている第三のビール「本麒麟」の販売に力を入れていくようです。

新ジャンルにもかかわらず商品名に会社名を冠し、メーカーの本気度がうかがえる本麒麟。ビールに近い味わいが売りで、19年の販売量は1510万ケースと、前年比で61%も増えました。 TVCMにメインで起用されているのは俳優の江口洋介さん(52歳)。これまで、江口洋介さんがほかのタレントに本麒麟を飲んでもらいに行くというCMが放送されてきました。

当初、商品のコアターゲットは40代~50代男性だったそうですが、「この人がおいしいというのなら試してみよう」という視聴者の気持ちを喚起するため、CMに40代、50代男性のみでなく女性タレントも積極的に起用した結果、節約志向の20代から30代の若年層をも取り込むことに成功しました。ラグビーのリーチマイケル選手(31歳)・トンプソンルーク選手(38歳)、ニューヨークヤンキースの田中将大投手(31歳)、女優の杏さん(33歳)が記憶に新しいところです。

好調な今こそ、ライバルとの差を広げる好機とにらみ、20年1月製造品からは大麦の配合量を増やし、本麒麟の強みである「ビールに近い卓越したうまさと品質」を一層強化したそうです。

これには本物志向の需要も取り込む狙いがあるようです。新CMには俳優の高橋一生さん(39歳)、お笑いコンビ「麒麟」の川島明さん(41歳)、アイドルグループ「ももいろクローバーZ」の百田夏菜子さん(25歳)が起用されています。

https://www.kirin.co.jp/products/beer/honkirin/#tvcm

20年10月の第1弾の改正では、第三のビールの酒税は10円上がる程度です。現在350ml缶はビールが230円前後、第三のビールが150円前後で売られており、価格面ではなお優位性を保つことができます。

本物志向かつ節約志向の消費者のさらなる囲い込みを狙うキリンビールの市場浸透戦略(注2)が奏功するのか、本麒麟が同社の同ジャンル「のどごし<生>」とのカニバリゼーションを乗り越え、成長性の高い第三のビール市場で確固たるブランドを築き、高いシェアを持つ「花形(注3)」に成長するのか注目したいと思います。

 

アサヒビール

アサヒは、税額が下がるビールの主力商品である「スーパードライ」の復活を目指すようです。

スーパードライは1987年に発売になると、爆発的な人気で当時苦境に陥っていたアサヒの救世主になりました。

ところが、19年のスーパードライの販売量は8644万ケースとなり前年比5%減少。若者のビール離れもあって販売数量は7年連続で減り、00年のピークの4割強の水準になりました。加えて、当時若者で90年代の高成長を支えたスーパードライの主要顧客層が現在50歳~60歳代となり、今後1人あたりの消費量が減る可能性は否定できません。

それでもアサヒがスーパードライにこだわるのは、今なおビールのシェア50%超を誇る抜群の認知度ゆえでしょう。

ビールは発泡酒や第三のビールに比べ利益率が高いことに加え、酒税改正で第三のビールとの価格差が徐々に詰まることもあり、市場でのシェアは高いものの成長性は低く「金のなる木(注3)」と思われていたスーパードライのビール市場に再度成長の可能性が浮上したことも要因でしょう。

TVCMにメインで起用されているのは歌手で俳優の福山雅治さん(51歳)。 最近、若手ビジネスマンを演じる菅田将暉さん(27歳)と、先輩役の中村倫也さん(33歳)が出演した「2人のトライ」編では、壁にぶつかりながらもチャレンジし、仲間と協力して成功を収めた達成感を分かち合いながらビールを飲む“最高の瞬間”が描かれていました。

また、現在の主要顧客年代の小日向文世さん(66歳)が父親役を演じ、実家に帰省した息子役の菅田将暉さんと久しぶりの再会に乾杯した「息子の帰省」編や、乃木坂46のメンバーの白石麻衣さん(27歳)、秋元真夏さん(26歳)、新内眞衣さん(28歳)、中田花奈さん(25歳)の4人が、春限定で展開している桜色の特別パッケージを片手に乾杯する「桜の下で、エール」編は、若年層を中心に人気の高いタレントを起用することで、20代から30代のビール需要活性化を狙ったものでしょう。

https://www.asahibeer.co.jp/superdry/tvcm2011_f/

高齢化した固定ファンに加え、新しい層に商品の魅力を訴えかけ売上の向上を狙ったアサヒビールの新市場開拓戦略(注2)の行方に注目したいと思います。

 

まとめ

20年からアサヒが販売量の公表をやめ、サントリービール、サッポロビールを含めたビール4社のシェアや市場規模が推定できなくなりました。

缶チューハイやハイボール人気などで、国内のビール系飲料は15年連続で減少しているものの、なお両社を支える屋台骨であることにはかわりありません。

酒税の一本化でビール系飲料市場の今後が読みにくい中、税額が上がる第三のビール「本麒麟」に力を注ぎ、市場浸透戦略を選んだキリン。

税額が下がるビールの主力商品「スーパードライ」の復活をもくろみ、新市場開拓戦略を選んだアサヒ。

ホップステップジャンプと販売量を増やし、勝利の美酒に酔いしれることができるのはいったいどちらなのでしょうか。

そんなことを思いめぐらしながら、香り・キメ細かな泡・炭酸の適度な刺激・爽やかな苦味を味わうために今夜もグラスを傾けたいと思います。

 

 

(注1)ビール系飲料の酒税改正
ビール工場から出荷時に課せられる酒税が2020年から2026年まで3段階で変わることを指します。現在は、350ml当たりビール77円、発泡酒約47円、第三のビール28円です。23年に発泡酒と第三のビールの酒税が統一され、26年に約54円に一本化されます。原材料や製法が異なるため、販売価格は分かれたままになるとみられていますが、相対的にビールは値下げ、第三のビールは値上げとなります。

 

(注2)アンゾフの成長マトリクス
企業の事業ドメインについて、経営戦略上の位置づけを行うために、市場と製品の二軸を設定し、それぞれ既存・新規と分けることによって、成長戦略を「市場浸透」、「新市場開拓」、「新製品開発」、「多角化」の4つに分類しています。 各企業はこれからどのような資源配分を行うのが適切かを検討し、戦略を決定します。

引用元:https://keiei-manabu.com/strategy/Ansoff-growthvector.html

①市場浸透戦略
既存市場に既存製品を投入していく戦略である。 広告宣伝や価格などのマーケティングの要素を有効に活用することによって、市場でのシェアを拡大し、経営目標の達成を目指す戦略である。

②新製品開発戦略
既存市場に新製品を投入していく戦略である新しい機能を付け加え今までとは異なる品質の製品を製造する、大きさや色などの面で新しい特徴を持った追加機種を開発する、などの方法がある

③新市場開拓戦略
新規市場に既存製品を投入していく戦略である。 既存の製品を、従来未開拓であった市場(新しい顧客層、新しい地域など)に展開することにより、売上を向上させ、企業の目標達成を目指す戦略である。

④多角化戦略 新規市場に新製品を投入していく戦略である。

 

(注3)プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM) は、元来、1970年代にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の開発した製品および事業のポートフォリオのフレームワークを指します。横軸に経験曲線効果に基づく相対的市場シェア、縦軸に製品ライフサイクル理論に基づく市場成長性を数値で表現する4象限のマトリクスにより、製品・事業の位置づけと組み合わせを一覧することができます。これにより、企業が展開する複数の製品・事業の戦略の方向性を検討する上で、

  1. 問題児(育成すべき段階)
  2. 花形(現在の取り組みを維持・継続する段階)
  3. 金のなる木(投資を抑えて収益を回収・収穫する段階)
  4. 負け犬(撤退する段階)を見極めます。

金のなる木で得た利益を市場成長率の高い問題児に投入し、花形に育成するのが基本戦略ですが、市場成長性の見込み違いによる無駄な資源投入や競争激化による負け犬への転落の恐れがあります。

引用元:https://makefri.jp/strategy/6126/

参考資料
日本経済新聞2020年1月9日付、2月14日付、2月19日付

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