Web制作という仕事に携わる上で、我々はよくコンセプトという言葉を使います。
「サイトコンセプト」「リニューアルコンセプト」などと使います。このコンセプトという言葉、解釈がとても難しい言葉ですが、知っておくと非常に便利です。
コンセプトという言葉を辞書で調べると「概念」と、これまたモヤっとした言葉が出てきます。
さらに調べると、「企画・広告などで、全体を貫く基本的な観点・考え方」などと続きます。
うーん。わかりやすいようでわかりにくい。
よく「世界観」などと言ったりもします。
「この作品のコンセプトは〇〇だ」
といった時、コンセプトを世界観という言葉に置き換えるとしっくりきます。
世界観。言葉ではもちろん理解できますが、具体的にどんなことでしょうか。
Web制作におけるコンセプトの考え方
Web制作においてなぜコンセプトというものが重要なのか、少し説明します。
企業のサイトリニューアルなどは非常に大変な作業です。実際に企業のサイトリニューアル作業に携わった経験のあるWeb担当者の方であれば、その苦労はご理解いただけると思います。
現状のサイトの課題、問題点をまとめ、
リニューアル後のサイトで何を実現したいか、
どういったデザイン、機能を実装したいかを明確にし仕様書やRFP※としてまとめます。
企業によっては社内でプロジェクトを立ち上げ、メンバーを集め、しっかり意見集約をし、リニューアルの基本方針に反映させたりもしますよね。
※RFP(Request For Proposal)・・・提案依頼書。情報システムの導入や業務委託を行うにあたり、発注先候補の事業者に具体的な提案を依頼する文書。システムの目的や概要、要件や制約条件などが記述されている。(IT用語辞典 e-Wordsより)
しかしながら、いざ制作に入ると、
「(せっかくのリニューアルだから)あれもやりたい、これもやりたい」
となったり、デザインが出来上がると、
「ここはこうした方が良い、そもそもデザインのテイストが好きじゃない」
など色々な意見が上がります。
これって、何とかならない?って思いますよね。
そんな時はコンセプトが重要になります。
つまり、それはリニューアルのコンセプトでありデザインのコンセプトです。
コンセプトがないと、みんな好き勝手言い始める
「概念」、「全体を貫く基本的な考え方」、「世界観」など様々な言葉で説明されますが、
我々はコンセプトという言葉を
「誰に、どんな価値を提供し、どう感じてもらうか」
と定義しています。
Web制作におけるコンセプトメイキングのポイント
Web制作においては、ターゲット(誰)と提供する価値は、できる限り絞り込まれているのが望ましいといえます。
納期があり、予算にも制約があるサイトリニューアルにおいて、全てのユーザーの意見や全ての課題をクリアすることは到底不可能です。
だからこそ、ターゲットや提供する価値は絞り込む必要があるわけです。
もちろんこれはWeb制作に限ったことではありません。あれもこれもと欲張ると、何一つ解決できないなどといったことが起きます。
「誰に、どんな価値を提供し、どう感じてもらうか」があればもう迷わない
わかりやすくするために、もう少しだけWeb制作の話をします。例えば、サイトリニューアルでクリアすべき課題に「情報にたどり着きやすいサイトにしたい(ユーザビリティを改善したい)」というものがあります。
また、同時に「今風な(カッコいい)サイトにしたい」という要望を受けることがあります。一般的に、これら2つの要望に応えるのは極めて難しいことといえます。
「今風」「カッコいい」という言葉の定義も必要になりますが、一般的なデザインにおいて「今風」「カッコいい」を優先するのであれば、ある程度、わかりやすさを犠牲にすることがあります。
例えば、同じサイトメニューでも次のようなものがあります。
(以下は東日印刷の現在と過去のコーポレートサイトのヘッダーデザインです)
2017年当時使用していたのは、いわゆる一般的なサイトメニュー。そして現在はスマートフォンなどで使用される3本線のメニューです。
当社は、2018年に現在のサイトにリニューアルしましたが、スマートフォンなどモバイル端末の普及により3本線のメニューに対するユーザーの抵抗がなくなってきていると判断し、リニューアルではトレンドを意識し、思い切ってシンプルなUIに変更しました。
この時、どちらが情報にたどり着きやすいか(誰でもわかりやすいか)と言えば、間違いなく前者です。
しかし、どちらのデザインが今風かと言えば、一般的には後者です。
このように、ターゲットや課題が絞り込まれていないと、相反する要素を両立したいという意見が上がり、プロジェクトは迷走します。
コンセプトがしっかりと定義されていれば、少なくともこのようなことは減ります。
コンセプトをつくれば無駄なミーティングは減る
同じようなことが企業における会議やミーティングにも当てはまります。
企業に勤めていると、「会議のための会議」ではありませんが、これって何のため、誰のためにやっている会議・ミーティングだっけ?なんてことがよくあります。
これは会議・ミーティングにコンセプトがないからと捉えることができます。
コンセプトがしっかりと定義されていれば、議論していく中で話が本筋から大幅に逸れることはありません。
「誰に、どんな価値を提供し、どう感じてもらうための会議・ミーティング」
なのか明文化することが重要です。
逆にターゲットや伝えたい価値、ターゲットにどう感じてもらいたいかというのを言語化できないのであれば、もしかしたら不要なミーティングかもしれません。
そういう場合は、わざわざ膝を突き合わせて情報共有する必要はなく、ツールなどを利用し、情報をオープンにすれば済みます。
しかし、わざわざ集まって会議・ミーティングを行うということは、少なからず誰かに何かを感じてもらい、それにより何らかの効果を生みたいと考えているはずです。
つまり、コンセプトがあるはずです。
例えば、我々T-NEXTのWebチームは
「頼れる関係によるチームワークの向上」
をゴールとしてチームミーティングのコンセプトを新たに定義しました。
それは
「お客さまと働くみんながハッピーを感じるためにボトルネックとなっている課題が何かを把握、共有する」
というものです。
このコンセプトを少し掘り下げて説明すると、ターゲットはお客さまと働くみんな(Webチームメンバー)です。
つまり、そこで把握、共有される課題は、クリアすることによりお客さま、チームメンバーのいずれか(もしくは双方が)ハッピーと感じられるものでなければなりません。
例えば、作業①をAさんは得意で、Bさんは不得意だったとします。であれば、作業①はAさんがやるべきで、そうすることによりAさんもBさんもハッピーになります。
そして、Aさんが手がけることにより、クオリティやスピードもアップ。最終的にはお客さまもハッピーになります。
組織的に考えれば当然のように思えますが、実はなかなかできないものです。
なぜなら、Bさんは「作業①」が得意ではないということを、メンバーに伝えなければならないからです。
自分の弱みを相手に見せるということはなかなか勇気のいる行為です。
「僕これ苦手で困ってるんですが、誰か助けてもらえませんか」と言うのって簡単なことではないですよね。
人を頼るのって結構難しい
でも、誰だって、働いていて「楽しい」「嬉しい」と感じたいし、できることなら得意なことをやりたい。
そしてお客さまに喜んでもらいたいと思っています。
働いている人が「楽しい」「嬉しい」と感じると、それはモチベーションにつながり、商品やサービスに反映されます。
だから、自分の課題や弱みをオープンにした方が、実はみんながハッピーなれると考えられます。
また、このようにコンセプトを掲げると、必然的に思っていること、感じていることは包み隠さず伝えなければいけなくなります。
「できます」「やります」と一人で背負い込むのではなく、お客さまやチームのことを考え誰がやれば一番良いかを考えるようになります。
つまりコンセプトをつくることにより、ミーティングに参加する人の気持ちの持ち方、考え方まで変えることができます。
もちろんこれは例であり、リソースに限りがあるからこそ、我々はチームワークを必要としています。そのため、それぞれの強みを活かし、お互いが頼れる関係を求めています。前提条件があってのミーティングコンセプトです。
一般的にはコンセプトなどという言葉を使うだけで煙たがられます。そもそもコンセプトという考え方自体が理解しにくいし、コンセプトを考えるということには時間がかかるためです。でも、しっかりとしたコンセプトを持っていれば、時が流れても、人が変わっても揺らぐことはありません。コミュニケーションにおける余計なコストも減っていきます。
「最近、会議が形骸化しているんだよなぁ」なんてお考えのリーダーのみなさん。
会議の価値を最大限に高めるために、まずはコンセプトを定義されてみてはいかがでしょうか。