インタビュー interview

BACKSIDE(前編)

挑戦している人や企業にフォーカスし、様々なことについて話を聞くインタビュー記事。今回はスノーボードジャーナリストにしてスノーボードメディアBACKSIDEの編集長を務める野上大介さんです。

野上さんと言えば世界的にも有名なスノーボードマガジンの老舗、TRANSWORLD SNOWboarding JAPANの元編集長。12年間勤めたトランスワールドジャパンにおいて実に10年間同誌の編集長を務めました。

その後、トランスワールドジャパンを退社し、スノーボードメディア「BACKSIDE(バックサイド)」をローンチ。テレビでもスノーボード競技の解説やコメンテータをするなど、活躍の場を広げており、最近では平昌五輪の男子ハーフパープの解説を務めたことも記憶に新しいところ。

今回は、スノーボードエディターの第一人者でもある同氏に、自身が編集長を務め、紙とWebにおいてクロスメディア展開するBACKSIDEに込められた思い、メディアとしての戦略、そして同氏が愛してやまないスノーボードについて伺いました。前編後編の2回に分けてお届けします。

BACKSIDEについて

バックサイドマガジン雑誌BACKSIDEはまるで写真集のようなクオリティの高さ

名前の由来について伺ってもよろしいですか?

スノーボードシーンの裏側、舞台裏に立ってスノーボードを支えていくという「裏側、舞台裏」といった意味と、スノーボードのバックサイドの意味を持っています。スノーボードにおけるバックサイドは、最初に難しさを感じる壁であるのと同時に、その壁を越えた時にのめり込んでいくきっかけでもあると思っています。読者にとって、ある種のターニングポイントになるような媒体でありたいと思っています。

※スピンにおいてはレギュラーの場合時計回り、グーフィーの場合反時計回りの方向を指し、ターンの場合はヒールエッジを効かせているターン、プレスの場合は背中側にアイテムがある状態で進入する動きを指す。

格好いいですね

単純に自分がバックサイド系の技が好きだったということもあるんですけどね 笑。

メディアをやっている上での大切にしているポリシーのようなものがあれば教えてください

読むことにより雪山との距離感を近く感じることができたり、それによりオフシーズンのモチベーションを保てるような、スノーボードを愛する人たちに必要とされる媒体でありたいと思っています。

その中で、立ち上げ当時の思想ではないですが、有益なもののみを届ける、そうじゃないものは取り上げないといった読者ファーストな視線を大切にしています。

Webメディアのローンチ、また雑誌を創刊されたのはいつですか?

Webメディアは2016年8月18日、雑誌は同年の10月28日です。

実は2年前の10月29日、國母和宏がCAPiTA/キャピタから初のシグネチャーモデル(スノーボードの板)をリリースし、そのリリースパーティーが東京・原宿で行われたのですが、それにタイミングを合わせるかたちとなりました。

これは創刊号で取り上げたいと思ったのが彼だったためです。

雑誌は、デジタルとは違い、紙だからこそ保存性の高い情報、つまり後世に残す価値があるものを見極め取り上げようと思っていました。じゃあ創刊号で取り上げるべきものは何かと考えた時、やっぱり國母和宏しかいないよなと。彼の人生を1冊にまとめてみようと思ったわけです。

パーティーでは前日にオンライン限定で販売を開始した弊誌の創刊発表もさせていただきました。

※これまでBACKSIDEマガジンの書店販売は行わず、Webでのオンライン販売のみだった。そんな中、2018年の10月1日から代官山蔦屋書店でバックナンバー6冊の販売を開始。過去にBURTONのニセコストアで写真集を販売したこともあったが実店舗での販売は今回が初めての試みとなる。

野上さんと親交の深い國母和宏さん

BACKSIDEはクロスメディアで展開していますが、紙とWebどちらに力を入れていますか?

こんな時代なのでWebメディアとしても展開していますが、紙とWebどちらにブランドとしての価値を持たせたいかというと、それはやはり紙ですね。紙でブランディングを行なっている部分もあります。紙があってのWebメディアです。

とは言え、今はWebメディアが先行し、その中から紙が生まれていく時代だと思っています。

例えば、HOUYHNHNM(フイナム)はWebサイトからHOUYHNHNM Unplugged(フイナムアンプラグド)が生まれました。その名の通り、プラグを抜いても読めるという感じで。スポーツで言えば、onyourmark MAGってWebメディアからmarkという雑誌が生まれたりしていますね。

ですから、雑誌とWebにはそれぞれの役割があって、双方向から情報を発信する時代だと考えています。そしてそれが正しいと僕は思っています。

HOUYHNHNM Unplugged-フイナムアンプラグド-とmark(公式サイトより引用)

Webの更新状況はいかがですか?

ユーザーは常に情報を欲しているでしょうから、タイムリーに提供すべきだと思っています。サービス開始から1日も欠かさず、毎日情報を発信しています。

 

業界に対して抱いていた違和感

野上さんが前職をお辞めになられた頃は、業界的にもデジタルシフトが一つの課題になっていたかと思いますが、実際のところはどのような感じだったのでしょうか。

デジタルへのシフトはどの出版社もやっていかなければならない状況でした。でも、僕もそうですが雑誌とか紙の出版物のエディターをずっとやってきた人間は、紙への思い入れが強いので抵抗を感じましたね。

Webでは原稿はいくらでも修正できますし、紙に比べれば、長文を書いたとしても、ニーズが少ないでしょうから、紙に比べ、よりライトな情報を不特定多数の見えない相手に量産していく、そんなイメージをWebに対しては持っていました。

だから、雑誌に力を入れているようなところはなかなかWebに移行できていませんでした。未だにWebではあくまでも雑誌の販売告知しかしていないような出版社もあります。

自らメディアを立ち上げようと決断された理由は、今おっしゃっていたような部分、つまり、デジタルへの対応など時代の流れにうまく対応できていないところにミスマッチを感じたということでしょうか。

それも一理はあります。

前職の出版社には12年務め、10年間スノーボード雑誌の編集長を務めていましたが、その間、スノーボードはオリンピック競技として成熟し、どんどんメジャーになっていきました。一方で、世の中はインターネットが台頭して、紙の売上が落ちていく。

そんな中、スノーボードの専門メディアがやっていることは時代の流れに逆行している部分がありました。

例えば、それはメディアゆえに(収益において)広告に依存しなければいけないビジネス的な体質であったり、それにより記事に対してある種の規制が生じることであったり。

僕自身、スノーボードが好きで、特にスノーボードのフリースタイルの世界観や価値観を広めたくてこの仕事をしているわけですが、いつの間にか自分がビジネスに傾倒していることに気が付きました。

スノーボードに対する世の中の認知度が上がる中、専門メディアのやっていることは旧態依然としていて、業界やビジネスの枠を越えられないでいる。有益な情報を発信しているつもりが、実は出来ていない。そして、届けたいと思っている層にも届いていない。そう感じました。

スノーボードの広報的な立場として、多くの読者に有益な情報を届けたいというある種使命感のようなものが野上さんを独立へと導いたということでしょうか。

それはあるかもしれません。

今でこそ、スノーボードはいちオリンピック競技として認知されているかもしれませんが、元々はスケートボードやサーフィンなどから派生しているためカルチャー的な要素が強いスポーツです。

どのメジャースポーツも小さい頃から、例えば、学校教育において体育の授業なんかで学びますよね。つまり、自然と強い選手が生まれる土壌がそこにはあると考えています。

それに対し、スノーボードは体育の授業で習うことはない。つまり、学校教育に属していないわけです。

にも関わらす、今や世界のトップに日本人選手がいる。

これってどういうことだろうと考えた時、スノーボードには体育のような学校教育では決して触れることが出来ない素晴らしい価値があるということを再認識しました。

それは、自由、つまりスノーボードで言うところのフリースタイル的な部分ということになるかと思いますが、オリンピック競技として注目されるようになった今だからこそ、そういった根幹にある価値や魅力を伝えることができるんじゃないかと思ったわけです。

そんな中、業界内では価値を伝えるよりもHow to作った方が売れるんじゃないかとか、クライアントに広告出稿してもらうためには、広告主のプロダクトや選手を紹介することを目的としたものを作らなければいけないという風潮でしたから、自分自身がやりたい、やるべきだと考えていることはなかなかできませんでした。

つまり、やり方を根本から変える必要がありました。平昌五輪では日本人選手が金メダルを取ると確信していましたから、年齢的にも、タイミング的にも今しかないという思いでしたね。

現在BACKSIDEでは望んでいたことは実現できているのでしょうか。

スノーボードなどの専門メディアはもともと実売部数がそんなに多いわけじゃないですから、広告への依存が強くなるのはいたしかたない部分があります。メディアを立ち上げる時は、ある程度自分たちに出資してくれるスポンサー(広告主)を募り、始めるのが一般的です。

しかし、それをやってしまうと同じことの繰り返しになってしまいますので、BACKSIDEでは既存のビジネスモデルに当てはめるのをやめようというところから始めました。

だから、本来のメディアのあるべき姿、広告に依存せず、読者にとって本当の意味で有益な情報の発信が実現できているのではないかと考えています。

インタビューに答える野上さん読者にとって有益な情報発信こそメディアのあるべき姿と語る野上さん

 

紙へのこだわり、読者ファースト

一般的に見て、雑誌としては発行回数がかなり少ないように思えますが、その辺に関しては、何か戦略のようなものがあるのでしょうか?例えばあえて発行回数を落とすことにより希少価値を上げるといったような。

出版社時代は、スノーボードの総合マガジンとして夏はカタログくらいでしたが、それでも多い時は8月から(翌年の)4月まで毎月発行していました。

しかし、定期的な情報発信として価値を打ち出すのであればWebでやった方がいいと思っていました。これからの時代は紙に落とし込む情報は今までと同じではいけない。だから、新しく始めるBACKSIDEを同じようなものにする気はなかったですね。

野上さんにとって紙に落とし込んだ方が良い情報とは具体的にどんなものでしょうか?

1回読んで終わりな情報ってあるじゃないですか。そういう情報は紙である必要がないですよね。でも例えば生き方の指針になるようなものって、何度も読み返したいじゃないですか。そういうものは本棚にあってすぐ読めた方がいいと思っています。

取り扱う内容において最適な表現のフォーマットを選ぶ、といったイメージですね。

そういう感覚はあります。解析ツールなんかで見てみると、BACKSIDEのサイトユーザーは9割がスマートフォンからのアクセスです。やはり物理的に考えて、スマートフォンで長文というのは読むのが辛いと思います。

じゃあスマートフォンなどで読む文章の長さとして、何文字程度が適正かと言えば、おそらくそれは2000〜3000文字程度だと思います。2000〜3000文字程度で伝えられることは限られています。

例えば僕が10000文字かけて伝えたいことがあったとしたら、僕はそれを表現するのであれば、迷わず紙を選びます。

また、スノーボードの場合、例えば写真にも価値があると思っています。

青い空、白い雪、バックカントリーともなれば普段はなかなかお目にかかれないような広大な景色が広がっていて、その中を人が滑ったり飛んだりしているわけです。もちろん、景色だけでも十分芸術として価値があると思います。

それをWebやインスタグラムのようなアプリに落とし込んだとしても、迫力とか美しさとか、ライダーの表現したいものなども含め、本来の写真の価値は伝わらないと思っています。そういうものは、紙に落とし込んだ方が価値があると思うんです。

実は、次号の販売に合わせ、11月20日から代官山の蔦屋で1ヶ月間ポップアップイベントを開催するのですが、そこでは写真販売を行う予定です。スノーボーダーじゃなくても一つの芸術作品として興味を示してくれるような人はいます。写真は視覚的情報として価値があるものですから。

情報を発信する立場からも、それを受け取る側からも、伝わりやすさでを考え最適なフォーマットを選ぶ。まさに先ほどおっしゃっていた「読者ファースト」を体現されていますね。インターネットの台頭により紙の価値が下がったなどと言われますが、そういったことに対してはどうお考えですか?

紙の価値が下がったという考え方には違和感を感じます。価値の問題ではなく、紙を使う理由が変わったと捉えています。昔は紙しかなかった。だから、回覧板じゃないですが紙を使って情報を伝えていたわけです。

でも今の時代はそうじゃない。だから紙で伝えていた時と同じような速報性を重視した内容の記事などをWeb上で伝えていると「インターネットの方が便利じゃない」って話になるんだと思うんです。

つまり、インターネットを介して伝えられないものこそ紙で伝えるべきだと思ってます。

インタビューに答える野上さん

 

インターネットの発展により紙の価値が下がったということではなく、インターネットにより紙にすべき情報を考え直すべきだという野上さん。そして、その際に判断の基準となるのは揺るぎなき「読者ファースト」な視点。まさにそれこそデジタルの時代における情報の編集力ということができるかもしれません。

出版不況が叫ばれる中、こうした発想にはヒントが隠されているように思います。

後編ではスノーボードのこと、そしてBACKSIDEを通して野上さんが伝えたいことにフォーカスをあてます。

 

一覧ページへ 

Other contents
その他のコンテンツ

Go to Top

Contact
お問い合わせ