挑戦している人や企業にフォーカスし、様々なことについて話を聞くインタビュー記事。今回は世界の「PLAY」を輸入する株式会社CAST JAPAN(キャストジャパン)です。
今では世界的な観光名所となった東京スカイツリーからもほど近い、墨田区業平に世界の「PLAY」を輸入する会社、キャストジャパンのSKY TREE PLAY LABがあります。
同社は、Gigamic(ギガミック)をはじめ、ThinkFun(シンクファン)、Maya organic(マヤ・オーガニック)など知育玩具や木製玩具を中心に、百貨店や書店などへの卸売、直営店での販売やECサイトによる通販も開始。
グリーン8と呼ばれる独自のセレクト基準を持ち、サスティナブルなコンセプトのもと、単なる子供が遊ぶためのおもちゃではなくコミュニケーションツールとして、世代を越えて楽しめるおもちゃを扱っています。
今回は、そんなキャストジャパンでコミュニケーションディレクターを務めるパーカー啓子さんに、社の成り立ちや戦略、モノが溢れる時代にモノを売るヒントをお聞きしました。
目次
世界の「PLAY」を輸入する会社
キャストジャパンについて。企業のコンセプトなどあれば教えてください。
平たく言えば、玩具の輸入販売を行う会社となりますが、私たちは、自分たちを世界中の「PLAY」を輸入する会社であると定義しています。おもちゃとか玩具という言葉を使ってしまうと子供が遊ぶものと限定されてしまい、少し狭義なものとなってしまいます。
私自身も子育てをする母親ですが、子供は遊びの中から本当に多くのものを学びます。音を聞いたり鳴らしたりすることもそうですし、積み木やお絵かきもそうです。そういう中で、想像力を働かせたり、思考を巡らせたり。
また、「PLAY」というのは大人にとっても非常に重要な要素です。「PLAY」を通して得られる体験、すなわち、物事を楽しむ力であったり、実験的試行を通しての学びという事は人生を豊かにするものだと考えています。
私たちは、そんな素晴らしい「PLAY」を輸入する会社でありたいと思っています。
「売れているモノ」よりも「無くてなはらないモノ」を、「小さくて売り場に置きやすいモノ」よりも「心に残る大きな価値のあるモノ」をセレクトすることを大切にしています。
グリーン8という独自のセレクト基準を持っておられますが、どのようなものでしょうか。
例えば、お子さんの誕生日やクリスマスにプレゼントを買う時、みなさんはきっとお子さんに欲しいものを聞かれると思います。
子供が欲しいものって、結局メディアの影響であったり、友達が持っているものだったりするので、情報源が非常に少なく、それを聞いて親が買ってしまうと、子供の所有物はすごく偏ったものになってしまうと思うんです。
元来、子供は与えられたもので遊びますから、結局のところ、親がどれだけ情報を持っているか、つまり私たちやメーカーがどれだけ情報を提供するかによって変わってくると思います。
そこで私たちは、地球に優しく、社会のためになって、さらに子供の発達に良いものをセレクトして届けようと、このグリーン8という基準を作りました。
みなさんの大切なお子さんに与えるおもちゃですから、ただ売れているから、可愛いから、今だけ楽しいといった一過性のものではなく、もっと永続的に、地球も喜ぶ、社会も喜ぶものを選ぶべきではないかと考えています。
なんでも、取り扱うおもちゃの対象年齢が広いとお聞きしましたが。
そうなんです。0才〜108才まで。 笑
108才でも本当に遊べますかね?
海外の対象年齢表記を使っていて・・・。みんなが楽しめるという意味です。
私たちが取り扱う対象年齢の広いおもちゃは、世代を超えた最高のコミュニケーションツールになります。
また、1人で遊べる物でも、例えば、物と向き合って組み立てたり、設置したり、構造を後ろから見たり、横から見たりする、そういうデジタルにはなくアナログでしか得られない体験というのは子供に限らず人にとって大切なものだと考えています。
SKY TREE PLAY LABには所狭しと大小様々なおもちゃが並ぶ
「コミュニケーション×トレーディング」という新たなビジネススタイルの創出
キャストジャパンの成り立ちについてお聞かせください。
もともと代表を務める小屋が欧州のコミュニケーション会社(広告会社)に勤めており、ヨーロッパ進出を希望する日本企業や米国企業のブランディングやマーケティング戦略の立案をしていました。
ご存知の通り、ヨーロッパは25言語と多言語です。さらに、国に応じて文化や価値観も様々です。ですから、進出する際、企業はその国に関する多くの情報が必要になります。
ヨーロッパというのは国でもなく、ヨーロッパ人という人種も存在しません。
よって国や地域ごとに文化が違い、感覚も異なるのでマーケティングもクリエイティブ表現も国ごとにカスタマイズする必要があります。そういった経験から企業や輸入された商品を「どう表現するか」というだけでなく、表現する企業や商品を自分たちで「セレクトする」ことから関わることで、新しいビジネス・スタイルを築いてみてはどうかと考えたわけです。
つまり、ブランドの販売代理店として貿易や販売を請け負いつつ、ブランディングやコミュニケーション活動もワン・ストップで行うというイメージです。
こうして、13年前の2006年、日本で新しいビジネススタイル「コミュニケーション ×トレーディング」の会社を立ち上げることになりました。そんな中、たまたま縁あって、ベルギーの教育玩具メーカーのディストリビューターをやってみないかというお話をいただき、市場へのランディングから立ち会うかたちで今の事業をスタートさせました。
コミュニケーション ×トレーディングを行う企業として、輸入した商品を問屋さんへ卸して業務終了ということではなく、取り扱う商品をメーカー以上に深く理解し、メーカーと日本の消費者のメディエーター(媒介者)として消費者のニーズにあった物作りをメーカーにコンサルティングするなど、全て自社でやっていくことを決めました。
創業当時を振り返るパーカ-さん。自身も創業メンバーの1人だ
創業当時、市場の反応はどのようなものでしたか?
2番目に独占契約を結んだブランドが、フランスの大手ボードゲームメーカーだったのですが、現在ほどボードゲーム・マーケットが確立しておらず、苦戦しました。坪売上の販売効率を考える販売店からは、「説明を必要とするものは売れない」とまで言われていました。
それでも、自信を持っておすすめできる面白いゲームをセレクトしている自負があったため、百貨店などに直接交渉を繰り返し、我々が店舗に立ちプロモーション販売を行うなど、草の根的な活動からスタートしました。
その頃は、とにかくボードゲームの本質的価値を直接消費者に伝える場所を増やすことに必死でした。
創業当初はかなり苦労もされたようですが、そんなキャストジャパンにとって転機というのはあったのでしょうか?
東日本大震災が一つのターニングポイントになり、当社が取り扱う商品に対する市場の見方が変わったように思います。
震災当時、電気などのインフラが遮断されたことにより、アナログゲームが再注目されました。私たちの取り扱い製品はコミュニケーションツールであり、世代を越えて遊べるおもちゃです。そうした部分が評価されたと考えています。
なるほど。確かにあの時、様々な分野でアナログというものの価値が見直されたかもしれません。しかし、キャストジャパンにとってそれが、単なる一過性のアナログ回帰とならなかったのは、先ほどのグリーン8をはじめとする明確なストーリーがそこにあったからではないかと感じます。
モノを売るのではなくコトを売る。キャストジャパン流”ワクワク感”の演出術
マーケティングにおいて、様々なことにチャレンジしている印象を受けます。例えば、トイ・マルシェというものをやっておられますが、これはどのようなものでしょうか?
私たちは、もともとベビー用のおもちゃも取り扱っていますが、仮に、1ブランドで20種類のラインナップがあったとしても、実際に店舗に並ぶのは、その中の2、3アイテムと、全アイテムを扱っていただけるような店舗というのは非常に少なのが現状です。
せっかく私たちが自信を持ってセレクトしているブランドなのに、実際にはその一部しかお客さまの目に触れないのはもったいないことです。
そんな中、新鮮な野菜や果物を売る海外のオーガニック・マルシェのように、色々なおもちゃが手に取れる市場(マーケット)があってもいいのではないかという発想に至りました。
素材や安全安心であることを重視したベビーアイテムは特にマルシェと親和性が高いので、ベビーブランドに焦点を絞り、ラインナップが全て見られるプラットフォームを作りました。
マルシェに行くと人はワクワクしますから、そういうワクワク感を演出したい。
例えば、トイ・マルシェでは、本場マルシェのように、バスケットを持って買いものをしていただきます。これは、もっとお客さまに買い物という体験を楽しんでもらいたいという思いからです。
また、お客さまが少しでも商品を手に取りやすいよう、トイ・マルシェでは低価格な商品を取り揃えています。
伊勢丹新宿で開催されたポップアップイベント
とても斬新ですね。モノの溢れている時代にはモノよりもコトを売ることが有効などとよく言われますが、まさにそうしたことを実践されているように思います。お客さんの反応はいかがでしたか?
みなさんカゴをお持ちになって、1個だけではなく、色々な商品を見てくださって、本当に私たちを知ろうとしてくれているのが伝わってきて、とても嬉しかったですね。
みなさんにもっとワクワクするような体験を提供するために、今後は自社の商品だけでなく、つながりのあるメーカーの商品もみなさんにお届けすることができればと思っています。
他にも、一風変わったプロモーションツールとして、特大サイズの商品カタログを制作されていますよね。
実は、その印刷(パノラマ印刷)を東日印刷にご依頼いただことが、今回のインタビューのきっかけとなったわけですが、この紙面の企画はどのような経緯で生まれたのでしょうか?
今回の特大紙面は主にBtoB用の販促ツールとして使用しています。例えば、ビッグサイトなどで開催される展示会で配っています。
はじめてこのような印刷技法を知った時に、私たちの取り扱う全30ブランドの全商品ラインナップを、ダイナミックに見せることができる!これだ!と思いました。
カタログは様々な種類の物がありますが、今の時代、情報は溢れています。
それこそWebでも同じ情報を得ることはできます。
そんな時代だからこそ、やはり手にとって見たくなるような作り方が、面白いし心に残ります。
やはり、この形は広げた時のインパクトがすごいですね。おかげさまで、非常に好評でした。
パノラマ印刷を用いた商品カタログはインパクト大
自立したプロフェッショナル集団。そして、ベースにある商品への愛情
キャストジャパンの企業文化についてお聞かせください。
取り扱い商品がおもちゃということで意外と思われるかもしれませんが、とにかく真面目です。そして、全てにおいて地道に取り組み、それを社員一人ひとりが楽しんでいますね。
私たちは、トレーダーでありながら、コミュニケーションもしますから、例えば、ボードゲーム一つとっても、どうすればマーケットを作れるか、ある特定の年齢層には、お年寄りにはどうすれば響くかというのを一人ひとりが日々研究し、トライアンドエラーを繰り返しています。
例えば私たちが考えたボードゲームのマーケッティング手法の一つは、海外ではゲームは学校教育に使われているというところに目を向けたことです。
実際、イスラエルの教育メソッド「マインド・ラボ」が弊社の取り扱うゲームを正規教材として採用していたため、「ボードゲームは、玩具か?教育か?」というカタログを作成し、ただの遊び方を伝えるのではなく、ゲームをPLAYすることで育まれる教育的側面を伝えました。
また、2020年から始まるプログラミング教育に向けて、アンプラグドでプログラミング的思考力が養えるゲームであると、「PLAY PROGRAMMING」 と題して全国各地で常設展開やポップアップショップを運営しています。
そして、ゲームを使って行う授業の企画も立て、小学校などにも販売ルートを拡げています。
「ボードゲームは、玩具か?教育か?」カタログ(20ページ)
「PLAY プログラミング」カタログ (16ページ)
そして私たちは、マスメディアを使ってCMを打つようなことはしませんので、営業活動も非常に地道です。
商品をPRするためのインストラクターと呼ばれるスタッフを全国に配置し、イベントなどを通して私たちの商品の素晴らしさを伝えています。
(左)プレイコーナーでは遊び方をわかりやすく解説、(右)遊び終わったらゲームパーツを戻す仕組みを作った、テーブル・シート@新宿伊勢丹
これは創業当時からの文化で、直接消費者に伝えることを、13年経った今でも、そして今後も続けていきたいと思っています。
つまり真面目、堅実でありながら、問題意識を持ち、試行錯誤している。そして、それを積極的に情報共有している。といった感じでしょうか。
そうですね。そして、それを支えるのは商品への愛情です。みんな、本当に商品を愛していますね。
コミュニケーションツールには何をお使いですか?
全社員が参加しているSMSのグループを持っています。また、社内のプロジェクト用にはチャットワークなどを使用しています。
全社員ということは・・・社長もですか?
そうです。社長はむしろ率先して意見しています。笑 そこに垣根はなく、一つの物事に対してみんなで向き合い、意見し合うという文化です。
キャストジャパンの社員に求められる働き方とはどのようなものでしょうか?
個人に裁量に委ねられている部分があるので、個人がプロジェクトを立ち上げ、メンバーを招集、先ほどのチャットワークなどにプロジェクトのスレッドを立ち上げるといった流れで仕事をしています。個人プレーの要素もありながら、チームワークも求められます。
例えば営業が、あるA店舗の売り上げアップを目標として、私のいるコミュニケーション部や商品の研究開発部に呼びかけ、売り上げ向上を目的とした、A店舗専用の販促物を作ろうと話し合いを行います。営業がプロジェクトを発足し、メンバーを招集してキックオフミーティングを行い、形にしていきます。
また、社員数もそれほど多くありませんので、社員は基本複数のプロジェクトに参加しています。私もチャットワーク上に抱えているプロジェクトの数は40くらいはあります。ですから、社員には徹底したタスク管理能力が求められます。
キャストジャパンで働くためには、自立した社員であることが求められそうですね。
そうですね。各個人が独立自尊することを目指しています。
先ほどの話の中で、プロジェクトごとにチームワークされているという話がありましたが、チームワークする上で大切にされていることはありますか?
一人ひとりがプロフェッショナルであるべきということでしょうか。
私たちは常に、マーケットにインパクトを残したいと考えていますので、アイデア会議への念入りな準備は欠かせません。
広告代理店の精神で、いろいろな角度から物事を捉え、みんなが出すだろう普通のアイデアが浮かんでも頭から追い出し、何が最適かを考え抜いて会議に挑みます。
誰かの意見や上司からの仕事を待つ姿勢ではなく、常に自分が率先して仕事を勝ち取っていく姿勢。
私たちのチームワークとは、上長が引っ張っていくスタイルではなく、みんながプロとしてチームを引っ張っていくイメージです。
個人に裁量権を与え、個人が様々なことに自由に取り組んでいける、そういった企業文化かと思いますが、自由を与えることにより、例えば連帯感や帰属意識が低下するなどといったことはないのでしょうか。
当社の場合は、イベントなどで忙しい時でも、1ヶ月に一回必ず、全体会議というのを開催しています。これは全社員が参加する会議です。
この会議では、営業やコミュニケーション部など各ディビジョンの長が必ず発表を行います。ですから、ディビジョンの長は、必ず自分のディビジョンがどういう状態であるかを把握していなければいけません。
また、各ディビジョンの長だけを集め、マネージャー会議というものも週に一度開催しています。
今までのお話を聞く限り、仕事が相当ハードなイメージがありますが、その点はいかがでしょう?
SMSなどを用いての社員同士のコミュニケーションは出社、退社後の通勤途中などで行うこともありますが、基本的にはノー残業を掲げてやっています。
ワークライフバランスは企業としてとても重要な要素です。オフタイムを充実させることにより、仕事におけるパフォーマンスも向上するのではないかと考えています。
キャストジャパンの考えるこれからの企業のあるべき姿
最後に、そんなキャストジャパンが考えるこれからの時代における企業のあり方のようなものがあれば、ぜひ教えてください。
社内でもこうした話はしますが、やはり、マーケットに迎合しないということが大切ではないかと思っています。
なぜなら、私たちは世界中のPLAYを輸入する会社として、PLAYというものの持つ素晴らしさを伝える役目を担っています。
ですから、例えばメディア受けであったり、流行りであったり、そういったものに惑わされない存在である必要があります。
売れるから売るのではなく、「売るべきものだから売る」。そして、ブランドや商品というものが本来持つ価値を伝え続けていくこと。
それこそが、キャストジャパンのあるべき姿ではないかと思っています。
インタビュー後に、パーカーさんから、ぜひやってもらいたいゲームがあるということで、急きょ、フランスのGigamic社製のクアルトという四目並べのゲームに挑戦することになりました。
4種類のコマを形、色、穴の有無、高さのいずれかで揃え、直線状に並べれば勝ちというシンプルなゲームですが、盤上に並べる駒は自分で選ぶことができず、相手に手渡された駒を使わなければならないというもの。
頭をフル稼働させて挑みましたが、結果はあえなく敗北。相手が何を考えているかを想像しつつ、自分の戦略を組み立てていくので、物事に対する広い視野が求められそうです。
対戦中は、時折相手の表情を伺ったり、プレッシャーを与えるような言葉をかけたりと、インタビューの中で語っていた、コミュニケーションツールという言葉の意味を理解することができました。
「私に大きな影響を与えたゲーム。これを知らない人がいるなんてもったいない。一家に一台置いてもらいたいくらいです。」
そう、笑顔で語るパーカーさん。
次はどんなサスティナブルなストーリーを見せてくれるのか。
今後もキャストジャパンから目が離せません。