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武田芳明が見たCONPT-TOUR2018

東日印刷の社長を務める武田がコンプトツアー2018(欧州新聞製作事情視察団)に参加しました。もと毎日新聞社の記者でもある武田は欧州の新聞製作事情をどう見たのでしょうか。社長自らリポートしてくれました。

キーワードは「地方版」だった

今年のコンプトツアー(欧州新聞製作事情視察団)に参加、10月4日から10日間、スイスやドイツなどの新聞社3社と傘下の新聞印刷工場3カ所を訪問、最後にベルリンで開催されたWPO、DCX(世界出版博覧会、デジタルコンテント博覧会)を視察した。デジタル化が進む欧州の新聞製作に直に触れて、経営のヒントを得られればと考えての参加だったが、参考になることが多かったと感じている。

「発想は移動距離に比例する」と、ある本に書いてあったが、ハードな旅程で疲労困憊した身としては、ぜひそうであってほしい。まず、全般的な感想を。昨年のツアーでは、スウェーデンの新聞社幹部が「5年後に紙の新聞はなくなる」と発言するなど、参加者はデジタル化への急激な傾斜と紙の退潮を痛感したようだが、今年は様子が違った。「紙の新聞、特にフリーペーパーは有望。地域版を増やせば、広告もついてくる」「新聞社のデジタルは儲かっていない」との声が強く、デジタル事業の期待外れが、紙媒体の見直しにつながっていると、強く感じた。

(文・武田芳明)

Sogemedia社前で集合写真を撮るツアーメンバーSogemedia 工場前(武田は前列中央)

Sogemedia-ソゲメディア社-

1989年創業。ベルギー国境まで15キロのフランスの地方都市(アヴェーヌ・シュル・エルプ)を拠点とする独立系メディア企業で、社員はグループで約250人。部数の減少と広告の落ち込みに対処するため、3年前にDigitaPrint 社(従業員16人)を設立して印刷工場を改革。2セットのうち、1ラインをデジタル印刷機(KodakProsper 6000C)に変更、タブロイド判40ページの週刊紙(L~ Observateur) の記事や広告のローカル化、細分化を推進した。他の1機も近くオフセットからデジタルに切り替えるという。デジタル機は一部ずつでも印面を変えられるバリアブル印刷ができるが、分速300メートルとスピードは遅い。印刷部数は約11万部、夜間には他紙の受託印刷もしている。

地元密着型新聞を展開

ジャン・ピエール・ド・カロール社長は若い頃、NHKパリ支局の記者をしていたという日本ファンで、スライドを見せながら長時間、紙の新聞を軸に据えた同社のビジョンを英語で解説してくれた。

キーワードは、

〈Hyper Localization(超ローカル化)〉

5つある地方版をそれぞれ、4つの地域版に細分化。地元の読者に最も興味のある記事をトップにし、広告主に地域・ターゲットを絞った効果的な出稿を可能にした。

〈Personalization(個別化)〉

さらに地域版ごとに4タイプ(事故など雑報や街ダネが多い総合紙、料理や星占いに重点、ガーデニング、スポーツに重点など)を発行、読者の好みに徹底的にカスタマイズして、小規模な広告主にもアピール。この戦略で、減少傾向だった読者数を維持、売り上げは過去1年間で約1割、アップしたという。同社長は最後に、「Make newspapers relevant again !」(紙の新聞を再び意義あるものにしよう)と語気を強めて訴え、大いに共鳴した。

レクチャー中のジャン・ピエールSogemedia社長社のビジョンについて語るジャン・ピエール・ド・カロール社長

デジタル印刷機の背後の壁には、仏語のフレーズが3つ、貼ってあった。帰国後、調べると、安全操業を訴える標語などではなかった。

  1. 困難だから、やろうとしないのではない。やろうとしないから、困難なのだ」ー古代ローマの哲人セネカ
  2. 「想像力は知識より重要だ」ーアインシュタイン
  3. 「夢の実現を不可能にするものがただ一つだけある。失敗するのではないかという恐れだ」ーブラジルの作家パウロ・コエーリョ

 

Tamedia-タメディア社−

Timedia社の編集センターTimedia社の編集センター

1893年創業。スイス最大のメディアグループで、チューリッヒに本社がある。フランス、ドイツ、オーストリア、デンマーク、イスラエルなどにも拠点があり、社員総数は約3700人。昨年の売り上げは、約1100億円、純利益約190億円。13年に完成した新本社は日本人建築家、坂茂氏の設計で木造7階建て。接合部に金物を使わず、フロア、壁、階段にガラスを多用したモダンなビルで、我々が訪れた前週だけで、3000人が見学に訪れたという。食堂は最近拡張したそうで広々としていた。

Timedia社の食堂モダンな造りのTimedia社、食堂も広々

無料紙、売り上げ牽引

同社の旗艦紙はTages-Anzeiger など新聞約30紙、雑誌11誌を発行しているが、有料紙の部数はいずれも近年、減少している。Tages-Anzeiger の場合、08年は21万3700部で今年は12万2900部。一方、電車の駅などに山積みで置いてある無料紙20Minuten は、20分で読める内容を売り物にしていて、街ダネやスポーツ、芸能が主で、論説やインタビュー記事は載せないという。ドイツ語、フランス語、イタリア語(スイスの公用語はこの3カ国語と話者が少ないロマンシュ語)で月曜から金曜まで発行し、部数は約70万部。スイスでは第三者機関が新聞の平均読者数を調査しており、Tamedia の広報担当者は、「1部を2.9人が読んでおり、読者数は200万人」と胸を張った。スイスの人口は約850万人だから、4人に1人が目を通している計算だ。「この新聞を電車内で読んだ人は座席に置きっぱなしにし、次に座った人がまた手に取る」と通訳の日本人女性が言う。

Timedia社の取り扱い媒体

同社は近年、他社の買収や統合を積極的に推進、求人、不動産などのサイトも運営しているが、「利益が出ているのは20Minuten の広告。紙とデジタルの売上比率は、全体で75対25だが、20Minuten 部門を除いてデジタルは利益を生んでいない」と広報担当者は説明した。

資料によると、2020年に向けた同社の戦略は、

  • 「出版業での強さを維持する」
  • 「デジタル部門を伸ばす」
  • 「新規ビジネスの開拓」

の3点だ。

同社グループの印刷会社は、チューリッヒ(4セット、夜間印刷部数100万部)、ローザンヌ(3セット、40万部)、ベルン(3セット、50万部)にある。

最大のチューリッヒ工場は本社から2キロ離れた市街地にあり、従業員約190人。

輪転機はケーニッヒ&バウアー(KBA)製Commander6×2機、ベルリーナ版で最大印刷速度は9万部/時。工場は非常にきれいで、輪転機も整備が行き届いていた。
案内してくれた副支配人のステファン・アブト氏は「社員は輪転機をマイマシーンとして大事にしている。大きな修理はセントラル(工場内の修理センターか?)、小さな修理や清掃は自分たちでやる。(輪転機ごとの)チーム同士で評価を競う。評価の基準は、損紙率、印刷のクオリティー、作業効率や顧客からの意見(クレーム)、機械の整備不良がないかだ」と語った。

 

Badische Zeitung-バーデン新聞-

ドイツの地方都市、フライブルク( 人口23万人)にあり、第二次大戦後の廃墟の中、1946年に創刊された。部数は約14万部、10年前に比べ2割減。宅配は13万部で残りは即売。社員は約500人で、ほかに約1500人のフリーランサーがいるという。

デジタルでは、一般ニュースは無料開放し、地方版記事に課金。13万ユーザーのうち、2万人が有料会員という。ターゲットを絞ったローカルコンテンツをさらに充実させることで、課金収入の増加を狙っている。案内してくれた幹部に「デジタル単体では利益が出ているのか」と質問したが、「デジタルと紙の新聞は同じデータを使っている」と説明、デジタルに固有の取材経費はかかっていないので、ペイしていると言いたいようだったが、利益について具体的な説明はなかった。

同社の食堂もきれいで、「地元によりそうために」と、東日印刷同様、地域に開放している。サラダバーもあった。

無水輪転完備、封入機も

工場は同じ敷地内にあり、系列の会社が経営。従業員は約160人。KBA製の4×2水なしオフセット輪転機3セットを設置。日本では珍しい水なし輪転機は2006年に導入、カラー発色が良く、環境にやさしいことなどが選定の理由。同工場は屋上にソーラーパネルを設置してエコ認証も取得している。インキミストが発生しないので、床は木だったが、インクの染みは見当たらず清潔で、工場内の仕切りはガラス扉だった。作業員には、個人に合わせた耳栓を特注で支給している。女性幹部が案内してくれたが、壁には昔の工場風景の写真を何枚も掲示、印刷関係で受賞した盾などを展示したコーナーもあり、社員たちの誇りを感じさせた。

Badische Zeitungの工場通路の壁には、昔の工場風景の写真が飾られていた工場通路の壁には、昔の工場の写真が飾られていた

工場通路の一角には、印刷コンクールで受賞した盾などを誇らしく展示していた誇らしげに飾られた盾

Tamedia、Badische Zeitung両社の工場では、日本の新聞印刷工場にはない機械(インサーター)が大きなスペースを占めていた。新聞へのチラシや付録雑誌の折り込みは、日本では販売店がしているが、販売店のない欧州では工場が担当、重要な収入源になっている。

ターゲットを絞った戦略成功、インドでは部数回復

WPO DCX

WPO、DCX(世界出版博覧会、デジタルコンテント博覧会)は今年48回目だが、同行した機械や資材メーカーの方によると、目新しい技術の開示はなく、出展社も昨年よりかなり減った印象だった(WPOのカタログでは、出展社は86社)。展示コーナーのテーブルでビールやワインを提供する社も多く、夕方には飲みながらの商談が目立った。

視察して回ったのは、輪転機メーカーのマンローランド・ゴス、ケーニッヒ&バウアー(KBA)。マンローランド・ゴスは最近2社が合併、世界で7500ライン稼働しているという。KBAは日本では目立たないが、創業から200年を越える世界最古の輪転機メーカー。世界市場で新聞印刷機の8割のシェアを有し、年間売上高は約1700億円。「日本にもっと進出したい」と言っていた。そのほか、東洋インキや富士フイルム、AGFA,5、発送設備関連のスイス企業、ミューラー・マルティニ、ferag などのブースを見学。東洋インキは、同社が16年に買収したトルコでトップのインキ会社が東洋インキとして出展、輸出ビジネス担当のトルコ人女性マネジャーが「東洋インキの傘下に入って発展し、世界展開ができる」と張り切っていた。

会場での講演では、WANIFRA(世界新聞協会)から今年、発表されたワールドプレストレンドを同協会のディーン・ローパー氏が解説してくれた内容が興味深かった。

ディーン氏はまず、世界28カ国の新聞の信頼度調査の結果を説明。日本はスウェーデン、英国と並んでほとんど最下位組、一方トップは中国、次いでインドネシア、インド、UAE(アラブ首長国連邦)という顔ぶれで、先進国で上位だったのはオランダ(5位)、カナダ(7位)で、米国はほぼ真ん中だった。これは、SNSなど情報発信の多様化が大きく影響していると思えるが、新聞の復権には、まず信頼度を上げる必要があると感じさせられた。

同協会の調査によると、昨年までの5年間で、世界の紙の新聞の発行部数はマイナス0.5%とほぼ横ばい、一方、デジタルの利用者は232%の急増だった。紙が微減なのは、まだ増加傾向にあるインドの存在が大きいようだ。紙面の広告が減少する一方、WEB、特にモバイルの広告は急増しているが、世界の新聞社の紙による売り上げは全体のほぼ9割を占めている、とも指摘。デジタル分野の成長が、紙による収益の減少を補っていない実態を浮き彫りにした。

「同じ新聞で、紙の読者に比べデジタルの読者の通読時間は極めて少ない」と、英国の主要8紙の調査(2016年)も紹介、この8紙全体で読者が新聞を読むのに費やしている時間の比率は紙が86%、デジタルが14%。示されたグラフによると、うち6紙は、紙の読者が7分~25分程度、デジタルは10数秒~7分程度だった。

地域特化の広告戦略

その後、登壇したインドのメディアグループABP最高経営責任者、プルカヤスタ氏は、フェイスブックのユーザーが米国を抜いて世界一になったIT大国、インドで紙の新聞が部数を一時の停滞からリバウンドさせることができたのは、地域版を極度に細分化して読者と広告主にアピールしたからだと、「ペーパー・イン・ペーパー」という表現を使って解説。ここでも、キーワードは地域版だった。

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